第二十話:兄弟の確執

「お疲れ様です、殿下」

 演習場に広く場所をとった一般観覧席で、生徒の家族達はピクニックシートを引いて体育大会を鑑賞する。
 キリヤナギもまた休憩にはいり、お弁当を持ってきてくれたセオの元へ、ヴァルサスとアレックスと共に戻っていた。

「まさかフラッグが取られちゃうなんて……」
「悪かったよ……」
「それ以前になんでここなんだ? 屋内じゃないのか?」
「すみません、マグノリア卿。人が多くて座れなかったのでこちらに」
「王子なのにか??」

 アレックスの疑問は最もだが、屋内のテーブル席は限られていて参加生徒の家族まで賄える座席はなく、キリヤナギはそれを許容するため演習場の一部を解放し、観覧席として広く取る事にした。
 結果的にここには、一般生徒の家族が沢山見にきていて、楽しそうにお昼を過ごしている。
 セオは王子が姿を見せた事で、作ってきたおにぎりのお弁当を広げ、早速3人に振る舞ってくれた。

「本当、不甲斐ないぜ。悪い……」
「ヴァル、取り返せばいいし大丈夫だよ」
「しかし、あまり悠長には言っていられないぞ、フラッグを取れない事には、いくら鉢巻を確保しても順位は揺るがないからな」

 セオのおにぎりを食べながら、デバイスのアプリで集計結果をみると、「王の力」青チームはフラッグ2本に鉢巻が70本。「タチバナ軍」の赤チームがフラッグが1本に鉢巻が80本。「無能力」の黄チームがフラッグ2本に鉢巻60本だった。
 鉢巻の数はずば抜けて多いのに、フラッグが1本に落ち着いた事で最下位となっている。
 
「残り兵数は青が60名。赤が50名。黄が30名だな。順当にいくのなら、黄チームのフラッグを二本奪うのが無難だとは思うが……」
「……」

 集計結果を見ながら考察するアレックスに、ヴァルサスは何も言わずに沈んでいる。
 その思い悩む表情へ、キリヤナギはどんな言葉をかければいいか迷った。

「黄色、強かった?」
「いや、俺が『タチバナ』に甘えてたんだ。あと王子が強かったし」
「……懸念した事ではあったが、序盤はあくまで陽動が刺さったのだろう。本陣に残った生徒も皆疲弊していたからな……」
「責めないのかよ」
「ただのゲームで責めてなんになる? これは戦略戦だ。「タチバナ」を学んだとはいえ、たった2週間ではやはり【素人】でしかない。それ前提にできなかった指揮官の敗北だ、気にしなくていい」

 キリヤナギは少し感動していた。ヴァルサスもようやく目線が上を向いて、渡されたセオのおにぎりへ口をつける。

「先輩は青チームと戦ってどうだった?」
「あくまで【素人】の感想だが、驚くほど相手に刺さっていた。人数差もあり無茶はできなかったが、僅かに残った防衛軍ならば、十分に相手にできる」
「本当か?」
「うん、『タチバナ』はそんな感じだから、ルーカス先輩の黄チームより、ツバサ兄さんの青チームにフラッグ取りに行く方がいいかも?」
「だがそれでは、ルーカスに後ろを取られかねない。ここは隊を分断して、黄と青の一本づつのフラッグを狙いに行き、挟み撃ちを避けつつ、自陣へ来るのを抑えるのが無難だと思う」
「人数たりなくならないかな?」
「黄は最悪、戦わず引きつけるだけでも十分だ。要はフラッグ一本であり、赤と青のみで戦える状況を作る。二つのチームを同時に相手にする状況だけは避け、優位になる青から一本を奪取できればいい」
「……」
「なんだ?」
「アレックス、お前すごいな」
「元生徒会長候補を舐めるな。だがこの分野は私の専門だ。王子の優勝を目指すなら、全力で手をかそう」
「ありがとう、先輩。頑張るね」
「王子のスペックが想像以上だったのは嬉しい誤算でもある。序盤であれを見せた事で、「タチバナ軍」の指揮は王子は負けないかぎり下がらないだろうからな。勝てそうか?」
「ツバサ兄さんの『王の力』次第かなぁ。【細胞促進】なら殺されそうで怖い……」
「知らないのか? 去年と同じならおそらく【服従】だが……」
「めちゃくちゃ厄介じゃねぇか……」
「前半戦は、青の本陣にも姿が見えなかったが、……後半は流石にでてくるだろう。耳栓はあった方がいいかもな」

 騎士ならば【服従】の誤発防止の機器があったとキリヤナギは記憶を辿る。しかしこの学生演習で使うのは反則にも思えて、考えるのはやめた。
 アレックスに作戦の詳細をききつつ、セオのおにぎりを楽しんでいたら、周辺を歩いている学生の家族と目があって二度見された。
 手を振って応じていると、こちらへ歩いてくる男性に目が留まった。黒髪に青目の彼は、見覚えのある雰囲気でキリヤナギは思わずヴァルサスを見る。

「どうした?」
「あの人似てるなって」
「あ……」

 ヴァルサスが手を振ると、こちらへと歩いてくる。長身でそれなりに高貴な服を着ていてキリヤナギはしばらく呆然と見ていた。
 
「ご機嫌よう、キリヤナギ殿下」
「兄貴、結局来たのかよ……」

 ヴァルサスの言葉に男性は微笑をこぼす、兄貴と呼ばれた彼は膝をついてキリヤナギと目を合わせてくれた。

「お兄さん?」
「はじめまして、ヴァルサス・アゼリアの兄、シュトラール・アゼリアです。普段は王宮の医務室にて仕えております」
「こんにちは!」
「お疲れ様です。シュトラールさん」
「ツバキ殿。いつもお世話になっている」
「セオも知り合いなの?」
「医務室の室長ですからね」
「へぇー」
「王宮勤めなのに、知らないのか?」
「私は去年、配属されたばかりですから、無理はないかと」
「兄貴は何しに来たんだよ」
「救護班の助っ人だ。ベルガモット嬢が救急箱を忘れたと聞いたので届けに来た。そんな事より、お昼は適当に済ますと言いながらずうずうしいぞ、ヴァルサス」
「うるせぇよ」
「殿下から元々伺っておりましたから、気にされず」
「申し訳ない。弟が世話になっている」

 シュトラールが持ち込んだバスケットには、作ってきたのか数人分のお昼が入っていた。ヴァルサスはバツ悪そうにしながらもシュトラールが持ってきた水筒からお茶を飲む。

「もう食えねぇよ」
「全く……」
「シュトラールさん。間も無く騎士も休憩にくるので、そちらでわけても構いませんか?」
「えぇ、それならば助かる。……ヴァルサス。私はこれから持ち場に着くが、あまりですぎた事をするんじゃないぞ?」
「うるせぇ!! わかってるよ」

 シュトラールはそう言って、バスケットだけを残して去ってしまった。持ってこられたそれは、ヴァルサスのために作られたのサンドイッチでキリヤナギもまた納得する。

「ヴァルのお弁当ってお兄さんが作ってたんだ」
「そうだぜ。うちは母さんが料理苦手だから」
「へぇ……」
「使用人がつくらないのか?」
「うるせぇ! お前らと一緒にすんな、一般なんだよ」
「でも兄弟って羨ましい。楽しそうだし」
「チビの頃は楽しかったけど、今は鬱陶しいだせだぜ、こんな感じに」
「賑やかでいいじゃん」

 楽しそうに話すキリヤナギは、シュトラールのお昼も味見して楽しんでいた。後からはジンとセスナも顔を見せ、しばらく休憩をした後、再び3人は「タチバナ軍」赤チームとして、持ち場へと戻る。
 機嫌が治ったヴァルサスだったが、定位置に行く途中で立ち止まり、慎重に口を開いた。

「王子」
「? どうかした?」
「俺、ルーカスのとこにフラッグを取り返しに行く」
「え」

 休憩時間で決めた作戦は、キリヤナギがルーカスの黄チームへ向かい、ミルトニアの監視を逸らしながら戦おうと話していた。
 「タチバナ」の経験が長く「癖」もほぼないキリヤナギなら、抑えることができると判断だ。

「俺がやらかした責任をとってくる。フラッグも」
「無理に取らなくてもいいんだぞ?」
「このまま負けっぱなしでいられねぇんだよ。頼む」

 キリヤナギは思わず周りの皆を見回した。彼らは別にキリヤナギでなくともいいと言ってくれて、安心もできる。

「わかった。無理しないでね」
「助かる」
「なら王子はもう一度青だな。クランリリーが懸念に残るが……」
「それなんだけど、僕の名前だしていいよ……」
「……いいのか?」
「……うん。頑張る」

 顔を青くする王子に、アレックスは不安になるが、ミルトニアの意識を反らせるならそれはたしかに活路になるだろう。
 【千里眼】の戦況の俯瞰は、どの部隊がどこにいるかを時差が発生せず正確に指揮を取れる。つまり彼女がいる限り、不意打ちが効果を発揮することはないと言える。
 キリヤナギは酷く苦手だが、彼女を脱落させなければ、この体育大会で優勝はないだろうとすら思うと戦うしかないのだと腹を括った。

 脱落した生徒から応援を受け、キリヤナギは皆の鉢巻を確認したのち、開始の合図と共に二手に分かれて走り出す。
 そしてその頃「王の力」を持つ青チームは、休憩を終えても酷くイライラしているツバサにみな戦々恐々としていた。
 シルフィはそんな彼の横で、かすり傷を負った生徒や【身体強化】を使った生徒を【細胞促進】で治癒を行う。

「【身体強化】は最後までとっておけと言ったはずだ!!」
「ひぃ、すみません。ハイドランジア卿」
「お兄様、彼はクランリリー嬢を守っただけです」
「ちっ、動けなかったら承知しない……」
「だめです。一時的とは言え繊維がぼろぼろになってはリスクが大きい。ここは他の生徒に交代がよろしいかと」
「シルフィは甘すぎる! これは戦いなんだ、妥協は許さない」
「演習ではありますが、これはゲームです! 身を犠牲にして何の意味があるのですか!」
「甘えるな!!」
「おやめくださいな、ハイドランジア御兄妹。どちらも正しいですわ」
「クランリリー……」
「現状において、我がチームは十分な成果をあげております。そこに争う意味があるとは思えませんが……」

 黙って目を背ける兄弟の口論はそこで終わる。ミルトニアは扇子で口を隠しながら楽しそうに笑う。

「あぁ、愛しのキリ様。ミルトニアは壁になれているでしょうか。この身の全ては貴方の為に、どうか乗り越えて下さいまし!」

 シルフィは苦笑しながらもそんなミルトニアに安心もしていた。ツバサは苛立ちを隠せず未だぶつぶつと何かを呟いている。

「あら、キリ様は隊を分割されるようですね。よほど『タチバナ』に自信があるのでしょう」
「近づけさせるな。シルフィ、半分の生徒を連れて迎えうて」
「……分かりました」
「お気をつけて、ハイドランジア嬢」

 シルフィは小さくため息をつきながらも、任された生徒と共に迎撃へとむかう。
 
@

 一方で、進軍を始めたキリヤナギとアレックスは、中央の拠点から開けた場所を通りどこから林の中へ入るか考察する。
 人数差があり、正面で当たっても勝率は高くないことから、出来るだけ場から有利に取れるように動きたいと思っていたからだ。

「いい場所は無いか? 王子」
「えーと……」

 キリヤナギは走りながら1週間前の下見のことを思い出す。フラッグが立てられる場所を探す作業で、演習場を隅々まで歩き回っていた時、シルフィと気をつけた方がいいと思った場所があったからだ。

「林の南側の地面が緩かったかも?」
「それは?」
「ぬかるんでる? 湿ってる地面というか……」

 アレックスは少し考え、使えるかもしれないと、林の南側から進軍をすることにした。
 見えてきた林に人の気配がないことを確認していると、ふとキリヤナギが突然立ち止まり、アレックスが驚く。

「どうした? 王子」

 キリヤナギの目線の先には赤の騎士服が揺れていて、皆はしばらくそれを眺めていた。
 肩に羽織るその騎士服を翻した彼は、長いドレッドヘアーを靡かせ、緑の鉢巻を腰に下ろしている。
 
「ご機嫌よう。殿下、お揃いの皆様もはじめまして。宮廷騎士団、ストレリチア隊、大隊長。宮廷特殊親衛隊隊長のセシル・ストレリチアです。お見知り置きを」
「騎士か……大隊長とは」

 皆が眉を顰め、優しく笑うセシルをみる。
 宮廷騎士団において大隊長とは、約千名の兵を束ねる12人の隊長騎士を指す。
 彼らは、騎士団の頂点へと属し通常青の騎士服より色を変え、赤の騎士服を纏って格の違いを誇示する。

「先輩。あと任せていい?」
「王子、これ以上鉢巻を取ることに意味はないぞ?」
「ちょっと戦ってみたくて……」

 アレックスは呆れながらも、キリヤナギのまっすぐなその目に感心もする。
 序盤から指示に従い、確実に役割をこなす王子に「やりたい事」があるなら、それを許せる部下でもありたいと思ったからだ。
 
「仕方がない。呼んだらすぐにきてくれ」
「うん。中断してでもいく。ありがとう」

 キリヤナギを残し、アレックスは皆を連れて林へと向かう。
 目を逸らさずゆっくりと武器を抜いた王子に、セシルも優しい微笑で応じてくれた。

「光栄です、殿下。【服従】の対策はしておられますか?」
「ううん、全然」
「ならばここは使わず、誠心誠意お相手させていただきましょう」

 セシルは2本の武器を持っていた。
 抜かれた武器は模造刀で、キリヤナギと同じ木製の物。もう一本は騎士として役目を果たすための物だと推察する。

 キリヤナギはセシルと戦うのは初めてだった。
 訓練は素手だとグランジ、剣はリュウドがみてくれていて、ストレリチア隊の皆とは殆ど戦った事はない。
 だからこそ、キリヤナギは自分を守る騎士が、果たしてどれほどの実力があるのか興味があった。
 もし強いなら、その力を身をもって知りたいと向かってゆく。
 セシルはまず、真っ向からそれを受けてくれた。受けたあと、連続して繰り出す凪を、全て弾くように応じてくれる。
 テンポがよく、正確に一定のリズムが刻まれていて、キリヤナギは合わせられていると悟った。
 セシルにはまだ余裕があるとわかり、速度を上げる。またフェイントから振らせた後に隙をつこうと攻めたが、左腕に仕込まれていたストッパーでガードされた。
 強いと、キリヤナギの中で気持ちが高揚する。

「お上手です、殿下」

 さらに長く、打ち合いが続く。一見互角にも見える戦いは、セシルにまだまだ十分な余裕があって、キリヤナギの体力が削られているだけだ。
 このままで勝てない。
 だがキリヤナギの繰り出す攻撃の手段は、全ていなされ受けられ、回避される。隙もなく、作らなければと、キリヤナギは腰を落としながら後ろへと回り込み、足を狙った。
 が、屈んだキリヤナギ肩へ体重をかけられ、まるで縄跳びのように回避もされる。
 翻され再びリセットされた対面に、キリヤナギは息切れながらも楽しくて仕方なかった。

「……すごい」
「私はまだ動けますよ」

 キリヤナギもまだ動けると、果敢に向かってゆく。
 そしてその頃、ヴァルサスはルーカスの黄チームと接敵していた。ルーカスもまた、アレックスの読み通り、赤の拠点を目指そうとして鉢合わせしたのだ。

「一人も逃がさねぇ! いくぜ!」
「フラッグは置いてきているな。なら貴様を倒してゆっくり撮りに行く!」

 相変わらず、ヴァルサスの動きは「タチバナ」が邪魔をする。「癖」による動作の遅れに、ルーカスは好機として攻めにくるが、ヴァルサスは以前の自分を思い出しながら、丁寧に対応した。
 騎士の父、サカキ・アゼリアに教わった立ち回りが戻ってくるにつれて、ようやくルーカスの動きに合わせて動ける。
 振られてくる武器を弾き、あえてプロテクターで受けながらガードを繰り返していると、ルーカスの頬へ汗が滲んでいるのがわかった。
 
「なんで姫に付き纏ってんだよ!」
「うるさい、お前たちとは違い、我らは称号も何もないんだ、それで好きな人を崇めて何が悪い!」
「嫌がってんだろうが!」
「ならこの気持ちをどこへやれと言う! 我々は誰にも迷惑をかけずにやってきたのに、それを壊したのはお前達だ!」
「誰と付き合おうが姫の勝手だろ! 本当に好きなら楽しそうにしてるだけで十分だろうが!」
「そうであれば我々も関与はしなかった。彼女は王族が苦手だと我々は誰よりも知っている!」
「お前らが嫌だからつるんでんだよ! 気づけ!」

 埒が開かずヴァルサスは一度押し返して距離を取った。そしてククリールが自身の気持ちを推してまで王子と関わっていた理由もある程度察した。
 他ならぬ誰かの意思を、自分が誰よりも理解していると言う傲慢な思考は、もはや本人の気持ちですら、付け入る隙を与えないのだと、呆れすら覚える。
 ルーカスの立ち筋は想像以上に訓練されていて、ほぼ互角のヴァルサスも時間が経つにつれて動きが鈍る。
 同行してきた生徒達は訓練に非参加のものばかりだが、まず戦い慣れてない者から倒され鉢巻の奪い合いが始まっていた。
 フラッグ何処だと、ルーカスの引き付けながら応戦していると、片耳のイヤホンから、「無能力」の黄チーム本陣にフラッグがないと言う連絡が入ってくる。
 なら誰かが持っていると、ヴァルサスは下がりながら俯瞰して探した。
 
「フラッグはこの中の誰かが持っている。お前にわかるか!?」

 ブラフかと思いながらも、ヴァルサスは距離を取りながらルーカスの体にそれを探す。
 彼はそれを察したように攻めてきて、他に意識が向かないようヴァルサスを引き付けているようだった。抑えられている最中、後ろから鉢巻を狙いにくる生徒に気づき、武器を滑らせて間を潜る事で逃れる。
 一度下がって俯瞰すると、集団から外れ赤の本陣を目指す数名がいた。
 その腰に下げられたフラッグに、ヴァルサスは迷う。
 目の前にはギリギリの中隊戦。
 お互いに兵を削り合う戦いで、副長たる自分が抜ければどうなるかと不安にもなっていた。

「行って下さい副長!」
「いけー!」

 本隊を抑えながら叫ばれた言葉に、ヴァルサスは迷わず駆け出すが、追ってきたルーカスに再び止められる。

「行かせるかぁ!」

 ルーカスの飛び込みをガードし、ヴァルサスは一気にそれを押し返した。

「邪魔すんじゃねぇ!!」

 ルーカスの体が宙に浮き、そのまま一気に畳み掛ける。模造刀の持ち手でプロテクター越しの胸を殴り込み。
 押し倒したヴァルサスは、腕に括られていた鉢巻を一気に解いた。
 それを見て呆然としていた黄の生徒も倒し、ヴァルサスはフラッグを持つ生徒へと捕まえて奪いにゆく。

 先行していた黄の3名は、ヴァルサスを囲い込みながら向かってくるが、彼にはそれが見えていた。
 「タチバナ」などいらないと、サカキ・アゼリアの影をそこに見た時、全員の武器が宙を舞う。
 再び持ち手で生徒を押し倒したヴァルサスは、鉢巻を解いてフラッグを奪った。

「とったぜ!! みんな!!」

 響いた声に応えるように、士気が戻ったヴァルサス率いる一軍は、一気に黄チームを押し返してゆく。

 そして同時刻。
 シルフィは現れたアレックスの位置をミルトニアより連絡を受け、30名の生徒を率いて進軍を開始していた。
 元々指揮が苦手なシルフィは、副長でありながらも、ツバサより【身体強化】の生徒の補助に回るよう指示を受けていたが、先程の口論から遠回しに「目の前から消えろ」と言われたのだろうと思う。
 普段から兄ツバサは、思い通りにならないことがあると逆上し、キリヤナギだけではなく他の生徒にまであの様な態度を取る。
 かつて幼いシルフィは、そんな兄が恐怖であり、活発であれど穏やかで優しいキリヤナギに逃げていたのだろうと、反省していた。
 激怒する兄に動じず、冷静に言葉を理解する王子は、その本心がシルフィを大切に思う故の言葉だと、誰よりも理解して嫌いではないと言ってくれる。
 大好きな兄が、どんなに辛い言葉を投げかけても、その態度が変わらない王子に救われていたのはシルフィだった。
 兄を受け入れてくれるのがキリヤナギしか居ないと思うと、シルフィにもまたキリヤナギしか居ない。しかしそれは、押し付けであることもシルフィは理解していた。

 ミルトニアの指示に従い、シルフィは防衛戦を貼るために南側へと急ぐ。
 キリヤナギが来ないと聞き、何故かホッとした自分もいて情け無いと思いながらも、目の前に現れる敵の元へ向かった。
 そして、岩の上に堂々と立つ金髪の男をみて驚く。
 アレックス・マグノリアは、岩の上に立ち上がり、まるで狙ってくれと言わんばかりにそこに立っている。
 シルフィは囲い込もうと前に出た時、先に進んだ生徒が大地のぬかるみに滑って転んだ。
 驚いて足元をみると、まるで雨上がりのように大地が湿っていて驚く。そして、アレックスに気を取られ、判断を誤った自分に後悔した。
 
 途端周辺から、赤の鉢巻を持つ「タチバナ軍」赤チームが続々と姿を見せ、畳み込まれてゆく。
 【認識阻害】の生徒も鉢巻を奪われ、【身体強化】を持つ数名も、使う前に足を取られて脱落していった。
 唯一、「無能力」の生徒が互角にやり合いながらも、能力者から順に倒されてゆきシルフィは混乱する。
 そして、目の前にいた筈のアレックスがいつの間にか消えていて、更に驚いた。

「生徒が少ない。他は本陣か?」
「……はい」

 いつのまにか後ろに回られていて、シルフィはため息が落ちた。今年の体育大会は、去年以上に役割がなかったと悔いも残る。

「あまりいい判断とは思えないが……」
「お兄様は、いつも通りですよ。指揮のほとんどはクランリリー嬢がとっていました」
「そうか、ここには何故一人で?」
「お兄様に、頭を冷やせと……」
「それがいつも通りか……?」
「はい。今日は機嫌が悪いようです」

 淡々と話す辛そうなシルフィに、アレックスは言葉に迷った。しかし、このまま彼女を捕虜や本陣に返しても、尚更辛い事があると判断する。
 
「私は大丈夫です、自由に」
「なら、先に終わって待っているといい」
「ありがとう。アレックス」

 アレックスは、シルフィの鉢巻を丁寧に解き、「王の力」青チームの防衛戦を突破する。
 その報告を受けたツバサは、シルフィが脱落した事にさらに眉間に皺を寄せ、鬼の形相でミルトニアを睨みつけていた。

「シルフィ……何故だ」
「大地のぬかるみをうまく利用されたようでした。ハイドラジア嬢は元々指揮が苦手と仰っておりましたが……」
「黙れ、クランリリー!」
「お言葉ですがハイドラジア卿。マグノリア卿がここへ辿り着けば、我々は明らかに不利。ここは残党の黄チームのフラッグを奪い、鉢巻を回収するのが無難かと、また残った騎士、セスナ・ベルガモット卿へ再戦を」
「どちらにせよ、鉢巻が足りないならフラッグと一緒に誘き寄せればいい話だ」
「? それは?」

 ツバサは周りに立つ防衛軍となった生徒を見る。彼らは向けられた目線に恐怖を覚えたのか震えていた。

「僕の声を聞け、-王子を倒せ-」

 紡がれた【服従】に、ミルトニアは驚いた。そして、2本のフラッグを持って歩き出すツバサを目で追う。

「クランリリー、お前はここに残り、マグノリアに伝えるんだ。僕はフラッグを持って王子の元へゆくと、【服従】の兵が王子を倒しに向かうと、そうなれば散らばっていた鉢巻も纏めて回収できるだろう?」
「最善とは思えませんが、確かにハイドラジア卿。貴方であればその借り受けた力で、不可能ではないかと」
「僕の力は【服従】。王子を含め全てを従わせればいいだけだ」
「なるほど、かしこまりました。お気をつけて」

 立ち去って行くツバサに、ミルトニアは表情を崩さず見送った。
 シルフィが敗北した事で、「王の力」青チームの鉢巻もかなり減らされたが、「タチバナ軍」の赤チームも、「無能力」の黄チームとの戦闘でかなり減らされている。
 よって作戦としては、フラッグを同率としながら、騎士と黄チームを狩る事で鉢巻のポイントで勝利を掴めばいいと考案していたのに、ツバサは終始、王子への酷い執着からずっと戦う機会を伺っていた。
 「勝たせろ」と言う提案に、キリヤナギの壁になれればと協力はしたが、ミルトニアの思う「壁」とは違っていて、どうしても不満が残る。
 このまま何もせず【千里眼】で見続けるのも、ただの傍観者だとおもうと、尚更何のためにいるのか分からないと、ミルトニアは頬を膨らませていた。

「クランリリー……」
「あら」

 気がつけばアレックスの率いる「タチバナ軍」が、ミルトニアを囲っている。
 しかし、残りの「王の力」の青チームは王子討伐のために出てゆき誰もいない。

「ご機嫌よう、マグノリア卿。ここにはもうフラッグはございませんよ」
「あぁ、そうみたいだな。移動したのか?」
「えぇ、ハイドラジア卿は、残りの生徒を連れてキリ様の討伐へ向かうと」
「は? 何故だ? 王子は何も持っていないぞ?」
「私も深くは存じませんが、あなた方の、は士気を削ぎたいのではと考察しております」
「……ツバサの独断か」
「あら、察しがよろしいのですね」
「ここまでの采配は見事だ、クランリリー。賞賛に値する」
「ふふ、キリ様の壁になれたのなら、この上無い光栄ですわ」
「お前ほど厄介な『壁』はいない。最有力とは名だけではないな」

 王子の婚約者候補生の中でミルトニア・クランリリーは、最有力候補として噂されており、アレックスはその狂人度合いから信じられもしなかったが、この体育大会で【千里眼】の扱いだけでなく、大隊を率いる指揮力や判断力をみれば納得もせざる得ない。
 そしてまたクランリリーは未だ成人にも満たない年齢で、大手事業をいくつも運営する事業家でもあり、運営力だけでなく政治力も兼ね備えまさに理想の貴婦人とも言える。

「私はキリ様に相応しい女になる為に努力したにすぎません。あぁ、キリ様。いまもこの大会を心から楽しんでおられて、ミルトニアはそんな貴方を見るだけでも幸せですわ……」
「……」

 うっとりする彼女に、アレックスは何も言えずにいた。ミルトニアは優秀だが、こちらと戦う気配は微塵も無さそうで尚更対応に困る。

「クランリリーはどうするんだ?」
「ハイドラジア卿からの言伝は終わりましたので、素直に鉢巻をお渡ししようと思っておりましたが」
「そんなに王子が好きなら、捕虜になって生で見ているといい」
「あら!」
「代わりにその通信を聞かせてもらうが構わないか?」
「もちろんですわ! 私のこのチームでの役目は終わりましたし、この目でキリ様を舐めるように見ることができるのはこれ以上ない幸福!! ぜひご一緒させてくださいまし!」
「あ、あぁ、交渉成立だな」
「今こそキリ様の有志をお写真に納めるチャンスですわ! マグノリア卿! お先に失礼しますわー!」
「待てぇぇーー!!」

 全速力で走るミルトニアを、アレックスを含めた生徒達が後を追う。ヴァルサスにもまた、ツバサが率いるチームが動いたと聞き、取られないよう本陣に置いてきたフラッグも持って助っ人へと向かう。

 そんな場が動いて行く中で、キリヤナギはイヤホンを外してセシルとの戦いを楽しんでいた。
 ヴァルサスがフラッグを奪取した事で、青チームのフラッグを奪わなくとも、ほぼ優勝が確定したからだ。あとはキリヤナギがここでセシルを認めさせ、緑の鉢巻を奪えればさらに優勝が近づく。
 必ず勝ちたいと思い、集中したいと言うと2人は許してくれた。音声への意識が無くなった事で、キリヤナギの動きにキレが増し、セシルがそれに応えてゆく。
 卑怯な手を使わずに愚直に戦いにくる王子は、セシルの見込み通り誠実で、誰よりも正しい正義をもっている。
 王子と言うよりも騎士に近いその性格に、セシルは勿体ないと思いながらもその意思に応じていた。
 もう何分も打ち合って行く中で、先に動きが鈍ったのは王子だった。ふらついて膝をつき、汗だくになる彼は未だ一回も攻撃がはいらないことが悔しくも嬉しくなる。

「強いぃ……」
「はは、殿下はもう少し体力を温存する立ち回りを意識された方がいいですね」
「やってるー!」
「なら、誘いに乗らないようお気をつけを」

 見に来ていた3回生の審判から水を渡されて、キリヤナギは一気飲みしていた。
 セシルは座り込んでしまった王子をみて、腰の鉢巻に手を触れる。しかし、目の前のキリヤナギはセシルとは違う方向へ目線が向いていた。
 林の方からくる大勢の生徒は、砂埃を上げながらこちらへと真っ直ぐに走ってくる。
 セシルはそんな彼らをみて眉を顰めた。 その迷いのない動作は、自分の意思で動いていないとひと目でわかるからだ。

「【服従】……」
「え、」
「殿下。お気をつけを、そこの方も離れてた方がいい。彼らは今、命令によって自制ができない状態かと思われます」
「【服従】で……?」
「はい。【服従】は、かかりてがその命令を達成したと認識するか、司令塔がその命令を取り下げたり、「王の力」を奪取するぐらいしか解除方法はない。命令によっては体が動かなくなるまで戦い続けます。お気をつけを……」
「騎士さん。これは中止した方が無難ですか?」
「ルール上、可能なことならば『使ったから中止』と言うのも違うとは思うのですが……」
「……ツバサ兄さんだよね」
「……存じません。しかし、殿下お一人では、どうなるかわからない。ここはお仲間と合流された方がいいかと」
「わかった。ありがとう、セシル」

 セシルは腰の鉢巻を解き、王子へと投げ渡してくれた。他ならぬ自身より強い騎士に認められた気がして嬉しくなる。

「私も楽しかったです。ご武運を」
「ありがとう!」

 キリヤナギは一度、イヤホンをつけて連絡をとり、動いていたヴァルサスと合流した。そしてやはりツバサの【服従】によるものだとわかり納得する。

『ヴァルサス、王子と抑えれるか?』
「アレックス。こっちもう10人ぐらいしかいねぇぞ、無茶言うな」
『なら、私が合流するまでだ、王子とどうにかしろ』
「フラッグ取られるぜ?」
「兄さんどこにいるんだろ……」
『ハイドラジア卿は、おそらく一緒にいると思う、私が合流出来れば挟み撃ちができるぞ、やる価値はある』

 少し悩む二人に残った数十名の生徒は、戸惑っていた。ツバサが率いているのは約30名。
 数では明らかに部が悪く普通に戦えば押し負けるのは目に見えているからだ。

「やる!」
「王子……」
『王子の実力に賭けろ。10分、5分だけ耐えてくれ、あとは後ろから押し込む』

 アレックスの隊は殆ど数が減らずのこり25名はいると言う。うまく合流が出来れば十分勝機はあると思うと、何故かキリヤナギはワクワクしていた。
 しかしヴァルサスは逃げればいいのに敢えて戦いに行く王子へ感心する。

『漁夫の利を狙う黄をよくみておけ、おそらくフラッグは本陣、鉢巻を狙って居るはずだ』
「わかった」

 そのはっきりとした返事に、そこにいる全員が背中を押されていた。そして目前にまで迫る「王の力」青チームに向けて、キリヤナギは向かって行く。
 こちらを倒さんと飛び込んでくる青に、キリヤナギは前転する事で、大軍の中へと飛び込み、解けそうな鉢巻を探す。
 しかし、シルフィが率いかつツバサが仕切るチームとして、その結び目は硬いものばかりで、解けるものが殆ど見当たらない。
 よってキリヤナギは、鉢巻を二の次におさえ、武器の握りが甘い生徒から武器を放させて倒しつつ、ヴァルサスの進軍を援護してゆく。
 キリヤナギが飛び込んだ事で、視線を追うように振り向いた前線に「タチバナ軍」は追撃するようにそれを崩していった。

 -王子を倒せ-と命令された彼らは、そのキリヤナギに惹きつけられるように、他に迫る生徒には目もくれず、確実に数を減らされ、その人数の多さから紛れ込んだ黄チームにすら鉢巻を取られて行く。
 そしてキリヤナギが大軍を抜け、大きく 
外周を走っていると、外れた場所からゆっくり歩いてくる生徒に気づいた。
 模造刀を引きずり、2本のフラッグを持つ彼は、キリヤナギを見て嬉しそうな笑みをみせる。

「ご機嫌よう、王子。会いたかったよ」
「ツバサ兄さん。【服従】を解いて、ゲームにならない」
「僕に指図するな、王子には仕えないと言ったはずだ」
「そうじゃなくて、このままじゃツバサ兄さんも勝てないよ?」
「黙れ! 余計なお世話だ!」

 話していても、生徒の彼らがキリヤナギへ向かってくる。その武器の振りは、プロテクター越しではなく、頭や脇などを狙われていて、キリヤナギの表情が変わった。
 そして鉢巻を取られた生徒ですらも制御が効かず、審判に笛を鳴らされている。

「ハイドラジア卿。今すぐ【服従】の解除を!」
「五月蝿い! 【服従】は今から使うんだよく見ておけ!!」
「っ! 王子! 耳を塞げ!!」

「-跪け! 王子!!-」

 叫ばれた声の波動は、その場にいる全員へと響き渡り皆がそこへと視線をおくる。
 その一連の出来事は、確実にキリヤナギへ【服従】が付与された事を意味し「タチバナ軍」の柱が壊された事に同義するからだ。
 ゆっくりと膝をつき、武器を下ろしたキリヤナギに向けて、未だ【服従】により「王子を倒せ」と命令された彼らが、輪となって襲いかかる。
 試合でもゲームでもなく、個人の解釈に委ねられたその「倒せ」は、「気絶」だけでなく「殺す」ことも視野に入っている可能性がありセシルは背筋が冷えた。
 しかし、行動は遅く間に合わない。盾になるしかないと、セシルが数歩進んだ時、動かないと思われた王子が、動いた。
 前転しギリギリで前に出たキリヤナギは、中央へ雪崩れ込む生徒を後ろに、ツバサへと走り込む。

「何故だ! 何故動ける! キリヤナギ!」

 ツバサの動揺にキリヤナギは動じずに攻めにゆく。持ち前の速さで振り抜く武器をツバサは動揺から、受けてガードすることしかできない。
 これにはセシルも唖然とするしかなかった。
  7つの「王の力」の一つ【服従】は、声の命令を直接脳の神経系へ届ける事で、相手を従わせるものだが、その命令はあくまで【言葉】であり、その意味の解釈によって個人差が発生する。
 つまり、【服従】によって「倒せ」と命令されたならば、その個人によって、相手を「気絶」させるか、それとも「殺す」なのか解釈が分かれ、行動に違いがでる。
 キリヤナギはこれを利用し、ツバサの「跪け」を「騎士の礼」として解釈した事で、その硬直はあくまで一礼として遂行され、掻い潜ったのだろうと考察した。
 
「何故だ! 王子!」
「【服従】を解いてくれたら教える!!」

 その余に想定外の出来事に、ヴァルサスも一瞬呆然としたが、王子を倒せなかった事で、再び向かってゆく集団を即座に止めにゆく。
 また、異常を聞きつけたジンとセスナも駆けつけ、いつでも介入出来るよう待機していた。
 
「ヴァルサス!」
「アレックス!! 頼む!!」

 ようやく合流した「タチバナ軍」の赤チームの本隊が加勢に入り、その波は止まったが、その制圧をのがれ数名がキリヤナギへと走っていった。
 ヴァルサスは追おうとするものの、静観していた黄チームの彼らに抑えられて驚く。

「力を奪取しろ!! 王子!」

 アレックスの叫びに、キリヤナギは答えるようにツバサを押し込む。しかし、ツバサの太刀筋は重く、他の生徒のように簡単に武器を放すことができなかった。
 振り込みの際に甘くなりがちな握りは、しっかりとしていて、狙っても簡単には外せず、弾き合いが続く。
 抑え込み、攻防が止まった段階でキリヤナギは更に叫んだ。

「僕と兄さんの問題に、みんなを巻き込むのは間違ってる!」
「黙れ! お前なんかに僕のことがわかってたまるかぁ!!」
「兄さん、やめて!!」

「-負けろ!! 王子!-」

 再び発された命令に、再びその場が凍りついた。模造刀の音が止まり、抑えていたキリヤナギの力が緩んで離されて行く。
 その一連の動作に、ヴァルサス、アレックスですらも、唇を噛んで目を逸らす。
 ツバサは笑みをこぼし、ようやく終わったとしながら、審判がキリヤナギの様子を見に来た時、動くはずのない彼の口が動いた。

「ツバサ兄さん」
「っ!」
「僕は、もうずっとツバサ兄さんに負けてる」

 俯いていた顔が上がり、ツバサはただ絶句していた。

「鬼ごっこでも勝った事ないし、ボードゲームも負けてばっかりだし、この体育大会でも、マグノリア先輩がいなかったら何もできなかった」
「……」
「……だから、僕はもうずっと兄さんに負けてる。……だけど」

 その時のキリヤナギの踏み込みに、ツバサは対応ができなかった。
 武器を離され一気に床へ倒したキリヤナギは、ツバサの首元へ模造刀を突き立てる。

「……剣だけは絶対負けたくない!」
「……!」
「-オウカの王子。キリヤナギの名の下に、貴殿の力【服従】を返却せよ!!-」

 紡がれた王族の命令に、ツバサからその「王の力」が消えて行く。【服従】の拘束力を失った彼らが、一気に正気にもどり、嵐のような空気がまるで解けるように穏やかになっていった。
 そして、愕然とするツバサを心配しながらも、キリヤナギは、鉢巻を解きフラッグを一本を入手する。 
 これにより「王の力」の青チームの総長と副長2名が脱落、または捕虜になったことで続行が不可能になったことと、「無能力」の黄チームもまた「降伏」を表面したことから、フラッグを3本を手に入れた「タチバナ軍」が輝かしい活躍をのこし、優勝した。

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